被食型散布
いわゆるフルーツは、果実が動物に食べられることで中の種子が散布される。種子は硬い種皮に覆われるため、消化されずに糞と一緒に排泄されるしくみ。
この散布方法は動物(多くの場合は鳥)との協力が必要なので、双方にメリットが必要になる。動物にとってメリットとなる美味しい果肉は、植物にとっては余計な出費となる。そこでなるべく少ない出費にする節約が植物によってなされている。
例えば、鳥の目は人に近い特性を持っているとされる。そこで緑の中での赤い実は空を飛ぶ鳥からはよく目立つ。ところがこのように目立つ赤い実が、概して美味しくないのはこの節約の結果とされている。実を赤くするという出費だけで鳥を呼び寄せることができるからだ。
山のフルーツにあまり甘いものが少ない理由は他にもある。植物からすると、たとえば1羽の鳥にたくさんの実を食べられてしまうと、広く散布されることが難しくなる。数多くの鳥に少しづつ食べられることが理想である。赤い色で呼び寄せて、好奇心から一粒食べさせ、美味しくないので立ち去らせる、というのが植物の狙いのようだ。
フルーツ(果肉)をもたない被食型散布の植物も多い。この場合、鳥は何を報酬としているのかよく分からないが、食べられた果実(種子)の一部を消化しているのではないか。植物にすれば、少しでも未消化のまま排泄されるものがあれば目的を達成する。
植物と動物との知恵比べも調べると面白い。もちろん、お店で売っているフルーツは人類が改良を重ねて作った品種なので美味しい。
被食型散布を手伝う鳥類
オナガ
カラス
キジバト
シジュカラ
ツグミ
ヒヨドリ
ムクドリ
メジロ
日本の被食型散布種子では大型のアオキの実。
丸呑みはヒヨドリかカラスしかできない。ヒヨドリ頼みの散布である。
千葉市小倉の森 160317
人工の水場(右下ブルーシート池)のそばの立木の下に生える実生(タブノキ他)。
被食型散布での散布先は、鳥が止まれる木立があることが必要条件。水場があれば鳥はより集まりやすい。
東京都海の森公園予定地 160213
カラスザンショウの実をついばむカラス。
カラスザンショウは乾果であり果皮は薄く栄養は無さそう。果肉を持たない被食型散布種子の代表。他にはウルシ科に多い。
横浜市篠原園地 101101
参考 種子散布のいろいろ
植物の種子は、一般的に親から離れたところで発芽するようなカラクリを持っている。そのようなカラクリを発達させた植物が、結果として生き残り繁殖してきたといえる。
親から離れることで親の下での病原菌や害虫から逃れ、さらに様々な場所に散らばることでより生育に適した場所を探すことができる。個々の種子としては生きるか死ぬかだが、種としてみると多数の種子が散らばることで種の繁殖に繫がる。
種子が親から離れた場所に散らばることを種子散布といい、そのカラクリにより次のように分類されている。
◎風散布
風まかせの散布。軽く小さな種子に多いカラクリ。種子に翼や綿毛がついていて、風で飛ばされやすくなっている。キク科、カエデ科、ヤナギ科などに多い。
◎動物散布(ひっつき虫型散布)
動物の体の毛にくっついて運ばれるタイプで、いわゆる「ひっつき虫」と呼ばれる。実による検索「ひっつき虫の草」を参照。
◎動物散布(被食型散布)
◎動物散布(貯食型散布)
冬眠をせずに越冬する動物によって巣穴や森の中に蓄えられ、食べ残された種子が発芽する。実による検索「ドングリの木」を参照。
◎自力散布
果実が成熟すると風などの刺激で皮が大きく弾け、種子を飛ばすという機械的なカラクリ。