タブノキ

学名 Machilus thunbergii
別名 タマグス、イヌグス、タマノキ、ダモ、マダミ、ドーネリ、モチノキ
紅楠(中)
椨の木 分類 クスノキ科タブノキ属 (常緑高木)
朝鮮語の方言におけるトンバイ(独木舟)がなまってタブとなり、タブを作る木の意、とする説がある。地方名のタマは「銭が溜まる」から。葉を穀粉と混ぜ餅にした地域も。 原産・分布 本州、四国、九州、沖縄。朝鮮南部、中国、台湾、フィリピン。
神奈川県 山地上部を除き、広く見られる。沿海地に多い。
用途 公園樹、器具・家具材、建築、パルプ
シイ・カシとともに、照葉樹林の代表樹。沿海地に多く、大木は30mにもなる。積層雲のように葉の層が重なりあって樹冠をつくる。
地域によって葉、樹皮、実などを生活の中で利用していた身近な植物でもあった。


神奈川県
二宮町
100814
タブノキ樹
樹皮は灰褐色でざらつき、古くなると不規則に割れ剥がれる。
太い樹の材は、古くから丸木舟など船材として用いられた。樹皮はタンニンを含むため染料(「こぼれ話し」参照)としての利用、香りや粘性があるため香料や線香としての利用などがあった。


神奈川県
大磯町
高麗山
070406
枝は2年目まで濃い緑色で、3年経つと皮目を中心に灰褐色の部分が多くなる。写真の芽鱗痕の左が1年枝、右が2年枝。2年枝の方が皮目が多いのが分かる。
冬芽の写真で分かるとおりタブノキは芽鱗が多いため、鱗片の痕である芽鱗痕がハッキリしている。芽鱗痕とは写真中央、枝の周囲を回る線状の筋。
タブノキの1年枝は芽鱗痕より上部に下から花序、枝の分岐、葉、茎頂の順の構成となる。
枝・芽鱗痕

東京都
海の森公園
160213
春の若葉は赤みを帯び美しい。
葉は互生で枝先に集まる。葉身は倒卵状長楕円形で先端が尖る。厚い革質で表面は光沢がある。縁は全縁。
★食★アオスジアゲハ
新芽・葉

横浜市
鶴見区
(植栽)
020508
タブノキ葉
頂芽が開くと新枝の下部から、数個の円錐花序が出て、多数の淡黄緑色の両性花を付ける。

横浜市
岸根公園
040411
タブノキ花
果実は漿果で球形。8〜9月に黒紫色に熟す。
古くから「天より降る木」と言われた。鳥が好んで食べ、種子散布したのだろう。
人も食用にした地域もある。


東京都
海の森
100719
タブノキ実
実生は、葉や枝が赤みを帯びる、枝の先に葉が集まる、など特徴を持っている。 実生

東京都
海の森
090927
タブノキ実生
冬芽は混芽で頂芽が特に大きい。多数の鱗片が瓦状にならび、赤味を帯びる。5月に深紅色の若葉を出すので目立つ。
クスノキ科の樹木の冬芽は、比較的大きく目立つ。
冬芽

神奈川県
二宮町
070222
タブノキ冬芽
タブノキハウラウスフシ(タブノキ葉裏臼フシ)。タマバエによって、葉裏に形成される。表面は滑らかで光沢があり、日に当たると赤くなる。虫こぶの中には、円筒形の幼虫室があり、幼虫が1匹入っている。
5月上旬に羽化した成虫が、新葉に産卵する。1齢幼虫は、葉組織内に潜入し、秋には虫こぶが膨らみ始め、翌春に成熟する。
虫こぶ

神奈川県
二宮町
070414
タブノキ虫コブ
こぼれ話 「黄八丈」
八丈島に、古くから伝わる絹織物である「黄八丈」は、タブノキ(島ではマダミと呼ばれる)の樹皮を、染料として利用した。黄八丈の色は、鮮やかな黄色を主にして、樺色(「植物にゆかりの色」を参照)、黒色の三色がある。樺色を染めるのにタブノキの樹皮を使用する。ちなみに黄色はコブナグサというイネ科の草で染め椿の灰で媒染、黒色はスダジイの樹皮で染め泥汁で媒染する。それぞれの色の糸を縦横にして縞模様状に織り上げたものを「黄八丈」と呼んでおり、1977年に国の伝統工芸品に指定されている。
「黄八丈」の呼び名は戦後に使われるようになったもので、以前は「丹後」「八丈織」「八丈絹」などと呼ばれていた。守貞謾稿(嘉永六年 1853年)には「八丈縞」として「長け八丈なるにあらず。伊豆の南海中の八丈島にて製すところなり。」と紹介されている。
八丈島はもともと西方からの漂着船が多くあり、江戸時代以降は流形地としても利用された歴史がある。絹織物の技術は、西方からの漂着者や流形者によってもたらされ、進化したと考えられる。その発祥は定かでなく、室町時代には白紬が献納されたとされる。江戸時代には米による年貢の代わりに、絹織物を租税とすることが奨められた。江戸初期から中期にかけて黄色や樺色などの色が作られ、いわゆる「黄八丈」の染色技術が完成した。
「八丈島」と言う地名は、この特産品である絹織物の名が、そのままついたとされている。織物の1丈は約3mで、8丈の長さで絹織物は織られた。美濃八丈、尾張八丈、秋田八丈など各地にも特産品がある。
写真は現代の黄八丈。

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