種子散布のいろいろ
植物の種子は、一般的に親から離れたところで発芽するようなカラクリを持っている。そのようなカラクリを発達させた植物が、結果として生き残り繁殖してきたといえる。
親から離れることで親の下での病原菌や害虫から逃れ、様々な場所に散らばることでより生育に適した場所を探すことができる。個々の種子としては生きるか死ぬかだが、種としてみると多数の種子が散らばることで生存確率が高くなるわけだ。
種子が親から離れた場所に散らばることを種子散布といい、そのカラクリにより次のように分類されている。
風散布
軽く小さな種子に多いカラクリ。種子に翼や綿毛がついていて、風で飛ばされやすくなっている。キク科やヤナギ科は、綿毛を持つ種子の代表。またカエデ科は翼を持つ種子の代表。変わったところではケヤキのように枝葉ごと折れて飛ばされる種子もある。
動物散布(ひっつき虫型)
動物の体の毛にくっついて運ばれるタイプで、いわゆる「ひっつき虫」と呼ばれる。当然、低いところに種子がないと野生動物にくっつけないので、草本類に多いカラクリ。カギ状突起を持つもの、粘着物質を出すものなど手段はいろいろ。実による検索「ひっつき虫の草」を参照。
動物散布(被食型)
いわゆるフルーツは、果実が動物に食べられることで中の種子を散布する。種子は硬く消化されずに糞と一緒に排泄されるカラクリ。このカラクリは動物との協働が必要なので双方にメリットが必要です。動物にメリットとなる美味しい果肉を作ることは、植物にとってはデメリットになるので工夫が必要になる。たとえば1匹の動物に一度にたくさん食べられると、広く散布されることが難しくなる。植物と動物との知恵比べをいろいろと見ることがでる。特徴は、果実が目立つことと種子が硬いこと。一般的には、果肉は食べるところが少なく、美味しくないものが多い。
動物散布(貯食型)
冬眠をせずに越冬する動物にとって、秋には冬の間の餌の確保が重要になる。ドングリは、リスやカケスなど貯食の習性をもつ動物により、巣穴や森の中に蓄えられる。蓄えられたドングリは、ほとんど冬の間の食料になってしまうが、中には食べ残し、食べ忘れがある。既に土中に埋められていることが多いので発芽しやすい。一般的にドングリが持つタンニンなどの毒性が、土中でアク抜きされることも貯食型散布のカラクリとも言える。
アリ散布
貯食型の特殊な例として、アリに種子散布を託した植物(特に草本)がある。カタクリやスミレなどだが、エライオソームと呼ばれる糖や脂肪を含んだゼリー状の物質を種子に付けている。アリは種子を巣まで運び、エライオソームを剥ぎ取ると放置するため、柔らかい土の中で種子は発芽のチャンスを得る。春に花が咲き、夏の鬱蒼とした藪の下で結実する草本に多い散布型。
自力散布
果実が成熟すると風などの刺激で皮が大きく弾け、種子を飛ばすという機械的なカラクリ。大きな移動はできないので草本に多いタイプ。夏に花が咲き、背の高い茎の先端に種子をつけることで、茎が倒れると茎の長さの分遠くに種子がこぼれるのもこの一種だと思える。木本ではフジが種を飛ばす代表。
その他
種子が水の流で運ばれることがある。歌にあるヤシの実やオニグルミなど。ただ水流は概ね一定方向のため、本当の意味で散布なのか疑問。