木の1年間の成長のしるし

2017年1月22日

植木の手入れをいろいろなお庭でさせていただく。
家主さんからは「直ぐに大きくなっちゃって困る」と言われて、こちらが困ることがよくある。
確かに決して広くない庭に植えられた木は、植えられた時点でちょうど良い大きさのことが多いので、
数年経てば当然大きくなり、家主さんの当初の目論見から外れていく。

家主さんには、「木も生きているので成長します。植木屋は1年の成長分を剪定するので元に戻ります。」
と説明するが、正確には太った幹を削るわけにいかないし、全く1年前と同じにはできない。
そもそも1年前の形や大きさを記録している訳ではないし、まして覚えてはいられない。
この木が1年前はどんな形をしていたのか、なんて木を見て分かるのだろうか。

木の姿を毎日1枚写真に撮り、1年間分を並べてスライドショーすれば木の成長がよく分かるだろう。
木の1年間の成長による変化を知る方法を考えてみた。

1年間の成長の始まりは、冬芽からの春の芽吹きである。
下の写真は共にタブノキで、左が冬芽、右が伸び始めた新芽である。
タブノキは冬芽が赤く大きいので分かりやすい。さらに芽吹いた新芽が大きく綺麗である

この春の芽吹きは一種の奇跡に見える。
冬芽を覆っている赤い鱗状のものは冬の寒さから芽を守る防寒着で、芽鱗と呼ばれる。
この1cm前後の芽の中に、右写真の新芽(新しい葉や茎、薄紅色のなど)の全ての素が入っている。
伸び始めた新しい芽の基部を、薄黄色になった芽鱗が包んでいるのが分かる。芽鱗と苞はすぐに落ちてしまう。
通常、木の1年間の成長はこの新芽が全てで、シュートと呼ばれる。
シュートはこの後、グングン成長する。

タブノキの特徴について、いくつか補足する。
タブノキの葉は枝の先に集まって互生する。写真のように苞のある下半分に葉は無い。
タブノキに花は咲かないのか? 花が咲く場合は苞の部分から花序が出てくる。
つまりその場合には冬芽の中には花(の素)も入っていることになる。
下の写真のように新しい芽が伸びる前に、花序は展開し花を開く。

次に冬芽の中を覗いてみよう。

中身はギッシリ詰まっていて、実は写真ではよく分からない。
しかし、中心の薄い肌色の部分から外側は芽鱗か苞であることが、何となく分かる。
特に外側から1/2くらいは芽鱗が何層にも重なって、厚い防御(防寒)層を作っている。
春に新芽としてぐんぐん伸びる部分は、冬芽の中ではまだまだ小さな生長点(茎頂分裂組織)としてのみ存在する。

写真ではこの芽鱗が茎に付いている部分は、かなりしっかりとした面積を占めていることが分かる。
この分厚い芽鱗も、大切な新芽が伸びてしまえば不要になり脱落する。
脱落するとしっかりとした跡が残り、それが木の成長を知る良い目印になる。
下の写真、真ん中より少し左、茎を取り巻く灰色の筋がある。この茎は左が先端で、前年の葉が4枚ほど筋の右に残っている。

この灰色の筋を芽鱗の付いていた痕、芽鱗痕と呼ぶ。
タブノキは芽鱗痕が比較的ハッキリしている。芽鱗で覆われる冬芽の木ならば芽鱗痕は大なり小なりある。

冬芽の痕が分かれば、1年間の木の成長量はそれで分かることになる。

タブノキの枝の写真。茎が伸びていく方向、右から左へ芽鱗痕を見ていくと。(見づらいのはお許しを)
右の暗い部分に1箇所、3本に枝分かれした後、各枝ごと数枚の葉の左に芽鱗痕のあるのが分かるだろうか。
上の枝は一番左は冬芽になっているので先端が1年目、分岐部が2年目、右端が3年目の枝と識別できる。

脚立に乗って剪定をしていると、切ろうとしたところにこの芽鱗痕があると、ちょっと驚きながら納得する。
そう、自分は1年分の成長を剪定しているのだから。
1年間で伸びた部分を全て剪定すればちょうど1年前の姿になることは確かだが、
それでは新しく元気な1年生の葉を全て切り落とすことになる。
だから、実際には切らない枝もあれば2年分くらい切ってしまう枝もある、といった適当な切り方をする。
なので剪定した後が1年前と同じになる、ということはない。残念ながら。

芽鱗痕の付き方がタブノキと違う木もある。
次の写真は左がタブノキ、右はシラカシの枝分かれの部分である。

左のタブノキは前の写真で見た枝分かれ部の拡大である。当然この写真の中に芽鱗痕は無い。
右のシラカシは分かれた枝の基部に白い筋がある。そう、これが芽鱗痕なのだ。
どの枝にも、その分かれた基部に芽鱗痕があるのが見えるだろうか。
これは、その木がいつ枝分かれするのかという樹種による特徴を表している。


上の写真はシラカシの冬芽だ。
タブノキの冬芽に比べ先端にたくさん付いている(頂生側芽と呼ぶ)ことが分かる。
春になると、この複数の冬芽が一斉に芽吹きを始めるので、先の枝分かれの写真のような芽鱗痕ができる。
下の写真はシラカシの春の芽吹き。一箇所から新芽が複数伸びている。

シラカシと比べ、タブノキは茎の成長途中で枝分かれが起きるので、頂芽は1つであり、つまりは分岐部に芽鱗痕は無い。
頂生側芽の木は冬芽の段階で既に枝分かれしている。
一方、頂芽が一つの木は、一般にはシュートの途中で枝分かれをする。

芽鱗痕が普通に観察できる枝のサンプルを最後に紹介する。
一般に冬芽の付き方を分類すると次のようなタイプがある(詳細は「冬芽の分類一覧」)を。
@頂芽優先で大きな頂芽を一つつけ、側芽は小さいあるいは目立たない。
A頂芽は一つだが側芽と比べて特に大きいわけではない。
B枝の先端に、頂芽ほ他に多くの芽(頂生側芽)がつく。
今までのタブノキは常緑樹の@のタイプ、シラカシは常緑樹のBのタイプだった。
次の写真は両方ともにAのタイプになる。芽鱗痕を探して確認してください。

シラキの枝                          クロモジの枝

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