貯食型散布

冬眠をせずに越冬する動物にとって、冬の間の食料の確保で秋は忙しい。一般的にドングリ類など種子は、リスやカケスなど一部の動物、鳥類によって、巣穴や森の中に蓄えられる。この習性が貯食と呼ばれる。
蓄えられたドングリは、ほとんど冬の間の食料になってしまうが、中には食べ残し、食べ忘れがある。既に土中に埋められていることも多いので発芽しやすい状態になっている。一般的にドングリが持つタンニンなどの毒性が、土中でアク抜きされることも貯食の習性を持つ動物への動機付けとなるので、貯食型散布のカラクリとも言える。
従来ドングリ類は「ドングリコロコロ・・」の唄のとおり、重力散布と分類されていた。確かに多くのドングリは重力により母樹の下に落ち発芽する。しかし、よく見ると母樹の下で大きくなっている若木をほとんど見ない。重力で散布されても、実態としてそれによる繁殖がほとんど無いので、最近では貯食型散布の分類に落ち着いているようだ。
アリ散布
貯食型の特殊な例として、アリに種子散布を託した植物(特に草本)がある。カタクリスミレなどだが、エライオソームと呼ばれる糖や脂肪を含んだゼリー状の物質を種子に付けている。アリは種子を巣まで運び、エライオソームを剥ぎ取ると放置するため、柔らかい土の中で種子は発芽のチャンスを得る。春に花が咲き、夏の鬱蒼とした藪の下で結実する草本に多い散布型。

貯食をする動物、鳥類
リス類
アカネズミ
ヒメネズミ
カケス
ホシガラス
ヤマガラ


傷を負った木の樹皮の下に隠されたドングリ。
多分リスによる貯食と思われる。これでは発芽できない。
群馬県みなかみ町赤谷161106


貯食型散布の結果生まれたシラカシ群。
落葉の雑木林に点々と生え繁るシラカシ(10年~20年生)。
手前に大きなシラカシの母樹がある。
秋になると、カケスがドングリをセッセと対岸の山肌に運ぶのを確認できる。
上野原市秋山 131226


シラカシのドングリをくわえて何度も往復するカケス。
上野原市秋山 111017

参考 種子散布のいろいろ

植物の種子は、一般的に親から離れたところで発芽するようなカラクリを持っている。そのようなカラクリを発達させた植物が、結果として生き残り繁殖してきたといえる。
親から離れることで親の下での病原菌や害虫から逃れ、さらに様々な場所に散らばることでより生育に適した場所を探すことができる。個々の種子としては生きるか死ぬかだが、種としてみると多数の種子が散らばることで種の繁殖に繫がる。
種子が親から離れた場所に散らばることを種子散布といい、そのカラクリにより次のように分類されている。

◎風散布
風まかせの散布。軽く小さな種子に多いカラクリ。種子に翼や綿毛がついていて、風で飛ばされやすくなっている。キク科カエデ科ヤナギ科などに多い。

◎動物散布(ひっつき虫型散布)
動物の体の毛にくっついて運ばれるタイプで、いわゆる「ひっつき虫」と呼ばれる。実による検索「ひっつき虫の草」を参照。

◎動物散布(被食型散布)
いわゆるフルーツは、果実が動物に食べられることで中の種子を散布する。種子は硬く消化されずに糞と一緒に排泄されるカラクリ。

◎動物散布(貯食型散布)

◎自力散布
果実が成熟すると風などの刺激で皮が大きく弾け、種子を飛ばすという機械的なカラクリ。