アブラチャン

学名 Parabenzoin praecox
別名 ムラダチ、ズサ、ヂシャ、ゴロハラ、イヌムラダチ
油瀝青 分類 クスノキ科クロモジ属 (落葉低木)
チャンとは瀝青(タール類、ピッチ)のこと。昔、果実や樹皮の油を灯油にしたことがある。 原産・分布 本州、四国、九州
神奈川県 県内全域の、山地や丘陵地の谷部樹林内にやや普通に見られる
用途 薪炭、杖
山中のやや湿った所に生える。萌芽しやすく、株立ちになる。丹沢には、写真のような、アブラチャンの林がよくある。
写真は目立たないが花が咲いている。


丹沢
仏果山
050417
アブラチャン樹
樹皮は灰褐色で滑らか、小さい皮目が多い。クロモジ属の特徴で、枝を折ると良い香りがする。
枝には油分があり、生木でも良く燃える。また粘り強いので、杖や輪かんじき(下欄「こぼれ話」参照)にする。


丹沢
水の木
040321
アブラチャン幹
葉は互生する。葉身は卵形または楕円形で急鋭尖頭、縁は全縁。葉柄は赤味を帯びる。

厚木市
七沢
080420
雌雄異株。3〜4月、展葉に先立って、淡黄色の小さな花を、散形状に付ける。
雌花序には3〜4花付き、花被片が6個、葯の無い雄しべが6個、雌しべが1個、子房は球形。
雌花

品川区
林試の森
050325
アブラチャン雌花
雄花序には3〜5花付き、花被片が6個、雄しべが9個あり、子房は退化してほとんど無い。 雄花

伊豆
国士峠
050330
アブラチャン雄花
果実は約15mmの球形で液果。9〜10月に緑黄褐色に熟し、不規則に裂開し、種子を1つ出す。若い実は油分が多く、ゼリー状。熟すと、乳白色で固い種子になる。

 
若実

丹沢
水の木
050619
アブラチャン実
白い粉をまぶしたような茶色の球が種子。直径は12〜14mmあり大きい。不規則に裂開した果皮が、まわりに散らばる。
このタイプの種子は動物による貯食散布が多い。
種子

群馬県
みなかみ町赤谷
091004
アブラチャン種子
秋には黄葉する。 黄葉

丹沢
塩水川
061112
アブラチャン黄葉
1年枝は細く、灰褐色か褐紫色で無毛。葉芽は褐紫色で小さい。花芽は球形で柄とともに無毛。同じ仲間のクロモジは、花柄が有毛なので区別できる。 冬芽

丹沢
大室山
070201
アブラチャン冬芽
冬芽(葉芽)の中には今年のシュートの基が1セット入っている。芽鱗を押し開いて芽が膨らむ。 芽吹き

上野原市秋山
140429
こぼれ話 「輪かんじき」
深い雪を歩くときに使う道具のことを「輪かんじき」あるいは「わかん」と呼ぶ(写真)。東北の雪の中で、クマを追うマタギの姿を見ると足元はこの輪かんじきを履いている。
群馬県の猿ヶ京で輪かんじき作りを教わったときに、講師の古老は輪かんじきは人それぞれ自分で作るもので買うものではない、だからこれから教えるのも自己流だ、と言われた。なるほど、世の中での必要数が多く、商業ベースになるものはお金で買うようになり、自分で作る知恵が途絶えてしまう。輪かんじきは雪山で暮らす人の必需品だが、昔も今も商業ベースにはならなかったようだ。
輪かんじきは、その材料も形も地域により異なるそうだ。新潟など平地が多いところでは竹製で圧雪面が広い構造になる。山間地ではよくしなる材料で圧雪面を小さくし滑り止めを付ける。材料はアブラチャン(チシャ)、タモ(アオダモ)、クロモジ、タケなどその土地で簡単に手に入るもので作っていた。猿ヶ京ではアブラチャンを多く使っているようだった。
基本構造としては、アブラチャンの枝をU字型に曲げたものを2つ組合わせて輪を作る。枝が無く、真っ直ぐで適当な太さの枝(幹)が一人分で4本必要になる。その枝を探すのも結構大変である。そのために探すのでなく、普段の生活の中で気がつくと採取していたようだった。
輪かんじきの両サイドに、滑り止めのために下駄の歯のようなものを取り付ける。この材料は硬い木で「ミネバリ」と教わった。初めはヨグソミネバリの異名のあるミズメかと思ったがどうも違うらしい。オノオレカンバのことだった。これはなかなか手に入らないので、ケヤキなどの代替品を使うこともある。
輪かんじきは日本の伝統の道具である。欧米製でスノーシューと呼ばれるものがある。こちらはアルミフレームでできていてやや大型である。スノーシューは大陸的で平地を早足で移動するのに便利だが、日本のような山間地を自由に動き回るのは輪かんじきの方が優れているように思う。

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