ウワミズザクラ

学名 Padus grayana
別名 ハハカ(古名)、カニワザクラ、コンゴウザクラ、アンニンゴ
上溝桜 分類 バラ科ウワミズザクラ属 (落葉高木)
裏に溝を彫った鹿の肩甲骨を、この木を燃やして焼いたときの、割れ目で占い(太占:ふとまに)をした故事による。占(裏)溝桜の表記が正しいとされている。 APG分類 バラ科ウワミズザクラ属 (落葉高木)
原産・分布 北海道、本州、四国、九州、中国中部
神奈川県 シイ・カシ帯〜ブナ帯下部に普通に分布。丘陵〜山地に生える。
用途 庭木、建築・器具・彫刻材、薪炭、樹皮を桜皮細工
山野に生え、高さ20mになる。
サクラの仲間(サクラ属)ではあるが小さな花をたくさん総状のブラシのようにつける。春の山で木全体が白く霞んだように見える。
総状の花序をつけるサクラには本種の他にイヌザクラ、シウリザクラがある。


品川区
自然教育園
040416
ウワミズザクラ樹
樹皮は暗紫褐色で、横長の皮目がある。サクラの仲間の中では、横縞の模様の印象は、少ない気がする。

神奈川県
大磯町
高麗山
070406
ウワミズザクラ幹
葉は互生し、卵形または卵状長楕円形。縁には細かい鋸歯がある。表面は無毛、裏面は葉脈上に毛がある。
2年を過ぎた黒紫色の枝に、赤褐色の1年枝が多数つく独特の枝の形状になるので、慣れると花が無くても見分けができる。
この1年枝のほとんどが秋には落ちてしまう。
枝・葉

群馬県
みなかみ町
赤谷
040724
ウワミズザクラ葉
雌雄同株
4〜5月、葉が開いてから、本年枝の先に、長さ6〜8cmの総状花序をつける。花は白色5弁で多数、密に咲く。
花序をつける枝には、3〜5枚の葉がつく。
花言葉「持続する愛情」
★食★新潟では、この蕾を塩漬けにしたものを、杏仁香(アンニンゴ)と呼んで食用にする。


丹沢
神ノ川
060430
ウワミズザクラ花
果実は核果。長さ6〜7mmの卵形で、先は尖る。初めは黄色で、熟すと赤色から黒色になる。
一つの実は小さいが房状になるのでツキノワグマの好物でもある。秋によくクマ棚が作られる。
緑黄色の時に塩漬けに、赤くなったら焼酎漬けにする。紅色の果実酒は綺麗。

 


秋田県
鳥海山
070829
ウワミズザクラ実
種子の形状は、ヤマザクラなどの種子とよく似るが、5mmほどでやや小さく、偏平でない。先端(胚側)が尖り、一筋の綾がある。 種子

秋田県
鳥海山
070829
サクラの仲間は、綺麗に紅葉するものが多いが、ウワミズザクラは一般的には黄葉するようだ。さらに、この年の黄葉はあまり鮮やかではなかった。 黄葉

群馬県
みなかみ町
赤谷
071103
ウワミズザクラ実
冬芽は鈍頭の卵形で、濃褐色。冬芽の横にある丸い痕跡は1年枝の落枝痕。古い枝は節くれだった印象がする。 冬芽

立川市
昭和公園
050306
ウワミズザクラ冬芽
春には多くの節から一年枝が芽吹く。花は枝の先につく。写真の花穂はまだ若い蕾。
写真のように花を持った1年枝は間違いなく落ちてしまうが、花の無い1年枝のいくつかが残って新しい樹冠を作っていくようだ。かなり無駄の多い仕組みにも思える。
芽吹き

上野原市
秋山
160404
子葉は小さく豆が2つに割れたような半楕円形。本葉には托葉がある。
前年の実の成り具合により、実生の芽生えが群生することがある。どうも種子散布する動物にたよらずに芽を出すようだ。
芽生え

千葉市
小倉の森
140417
こぼれ話 「太占(ふとまに)」
古代では、まつりごとで物事を決める時に占いは重要な行事(儀式)だった。
古事記神代編のやま場として、天照大神が弟の素盞鳴(すさのお)の乱暴狼藉に怒って天の岩屋に隠れてしまうという事件が起きる。天照大神は太陽神であり、太陽が隠れてしまうことでこの世界は真っ暗になり、様々な禍が起こったとされている。そのような大事件のときに行われる占いが太占である。
古事記では「・・・天の香具山の鹿の骨を抜き取って、同じく天の香具山のハハカの木で占いを・・・」とされている。牡鹿の肩甲骨ウワミズザクラの炭火で焼いて、骨の表面に現れる割れ目の模様によって占うとされるが、儀式の詳細は分からない。骨の割れ目といっても、もちろんそこに文字が表れわけではなく占い師がその模様をどのように解釈するかが重要になる。つまり占い師は国の意思決定を行う役割を持つ。古事記ではアメノコヤネ命(みこと)フトダマ命という2神が太占を司っている。
後に中国から亀の甲らを焼いて占う亀卜(きぼく)が伝わると、太占は廃れていく。この亀卜を司ったのが神祇官である卜部(うらべ)氏であり、神祇官は太政官よりも上位の官庁とされた。この時代からすでに日本人は外来のものに弱かったようだ。
占いには人生占いのように将来の吉凶を推測するものや、ある事象に潜む吉凶を判断するものなどいろいろあるが、太占は政治の意思決定や五穀豊穣の良し悪しを判断する占いのようだ。
古代においては、宗教と並んで占いが科学だったとも言える。明日の天気を知りたいときに、子供の頃には下駄を蹴上げて裏表で判断した。山にかかる雲の形などから判断する観天望気、さらに近代科学の天気予報とあるが、地球の丸いことを知らない古代人にとってはどれも占いの一つに見えるかもしれない。

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