ウワミズザクラ |
学名 | Padus grayana |
別名 | ハハカ(古名)、カニワザクラ、コンゴウザクラ、アンニンゴ、クソザクラ、 | |
上溝桜 | 分類 | バラ科ウワミズザクラ属 (落葉高木) |
裏に溝を彫った鹿の肩甲骨を、この木を燃やして焼いたときの、割れ目で占い(太占:ふとまに)をした故事による。占(裏)溝桜の表記が正しいとされている。 | APG分類 | バラ科ウワミズザクラ属 (落葉高木) |
原産・分布 | 北海道、本州、四国、九州。中国中部 | |
神奈川県 | 丘陵〜山地、シイ・カシ帯〜ブナ帯下部に普通に分布。 | |
用途 | 庭木、建築・器具・彫刻材、薪炭、樹皮を桜皮細工 | |
全国の山野に普通に生え、花の時期は目立つ。「こぼれ話」にあるように記紀神話にも登場する。古代から人々に親しまれ利用されてきた。高さ20mになる。 サクラの仲間ではあるが、たくさんの小さな花を総状のブラシのようにつける。春の山で木全体が白く霞んだように見える。 総状の花序をつけるサクラには本種の他にイヌザクラ、シウリザクラがある。 |
樹 品川区 自然教育園 040416 |
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樹 嘘みたいにたくさんの花。 上野原市秋山 250427 |
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若い木の樹皮は暗紫褐色で、横長の皮目が目立つため、サクラ仲間の印象がある。 成木になると、茶褐色であまり特徴のない樹皮になる。樹皮を見ただけでは何か分からない木ではある。 乾燥しても割れにくく、真っ直ぐな枝が採れるので、叩き棒や、鎌や鍬、鉈の柄にした。 樹皮には強い香があり、咳止め、去痰に用いたり、邪気を払う魔除けにしたりする地域もあった。地方名の”コンゴウ”とはこの香りをいう。 ★草木染め★濃茶。樹皮を煮出した汁に漬ける。 |
幹 神奈川県 大磯町 高麗山 070406 |
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若い幹 上野原市 秋山 160330 |
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毎年の新しい枝の伸び方が特徴的。 新しい枝(シュート)は2タイプあり、上の写真のように先端に花序のついた枝と、花序の無い葉だけの枝が混在する。 花期を経て秋になると、花序のあった枝は、実が熟すと枝ごと落ちてしまう。さらに葉だけの枝も、下写真のように赤味を帯びた後、枝自体が落ちてしまう。まるで今年のシュート全体が1枚の複葉のように落葉する。 つまり1年枝のほとんどが秋には落ちてしまい、翌年も親枝(2年以上の枝)から1年枝が再び伸びる。花序の無い葉だけの枝の一部が、秋にも落ちずに2年枝(親枝)となることで樹冠全体の成長がある。 何とももどかしい成長過程をとっている。 ちなみに親枝の節は、同じところから毎年新枝を出すために、太く膨らみ昨年の落枝痕が見える。 |
芽吹き 上野原市 秋山 190409 |
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花期の枝 群馬県 みなかみ町赤谷 070512 |
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秋の枝 赤い枝は冬にはほとんど落ちてしまう。 上野原市 秋山 160920 |
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親枝の節 上野原市 秋山 160421 |
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葉は互生し、卵形または卵状長楕円形。先は細く尖る、縁には細かい鋸歯がある。表面は無毛、裏面は葉脈上に毛がある。 葉柄の基部に托葉があるが、早期に落ちる。 |
枝・葉 群馬県 みなかみ町赤谷 040724 |
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葉表 厚木市 七沢森林公園 080514 |
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葉裏 厚木市 七沢森林公園 080514 |
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托葉 丹沢 大室山 070520 |
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雌雄同株。 4〜5月、葉が開いてから、本年枝の先に、長さ6〜8cmの総状花序をつける。花は白色5弁で多数、密に咲く。 花序をつける枝には、3〜5枚の葉がつく。 花言葉「持続する愛情」 ★食★新潟では、この蕾を塩漬けにしたものを、杏仁香(アンニンゴ)と呼んで食用にする。 |
蕾 群馬県 みなかみ町赤谷 050506 |
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花 丹沢 神ノ川 060430 |
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花拡大 新潟県 村上町 泥又川 070525 |
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果実は核果。長さ6〜7mmの卵形で、先は尖る。初めは黄色で、熟すと赤色から黒色になる。 一つの実は小さいが房状になるのでツキノワグマの好物でもある。秋によくクマ棚が作られる。 緑黄色の時に塩漬けに、赤くなったら焼酎漬けにする。紅色の果実酒は綺麗。 果実は熟すと黒くなるが、すぐに落ちたり、鳥に食われたりする。多くの実が揃って赤くなっていることはあまりない。下写真のように収穫した実は色とりどり。 |
実 秋田県 鳥海山 070829 |
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実 群馬県みなかみ町赤谷 090802 |
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実 秋田県鳥海山 070901 |
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種子の形状は、ヤマザクラなどの種子とよく似るが、5mmほどでやや小さく、偏平でない。先端(胚側)が尖り、一筋の綾がある。 | 種子 秋田県 鳥海山 070829 |
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サクラの仲間は、綺麗に紅葉するものが多いが、ウワミズザクラは一般的には黄葉するようだ。さらに、この年の黄葉はあまり鮮やかではなかった。 | 黄葉 群馬県 みなかみ町 赤谷 071103 |
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冬芽は鈍頭の卵形で、濃褐色。冬芽の横にある丸い痕跡は1年枝の落枝痕。古い枝は節くれだった印象がする。 | 冬芽 立川市 昭和公園 050306 |
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春には多くの節から一年枝が芽吹く。花は枝の先につく。写真の花穂はまだ若い蕾。 写真のように花を持った1年枝は間違いなく落ちてしまうが、花の無い1年枝のいくつかが残って新しい樹冠を作っていくようだ。かなり無駄の多い仕組みにも思える。 |
芽吹き 上野原市 秋山 160404 |
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子葉は小さく豆が2つに割れたような半楕円形。本葉には托葉がある。 前年の実の成り具合により、実生の芽生えが群生することがある(写真下)。どうも種子散布する動物に頼らずに芽を出すようだ。 これだけの実生だが、翌年にはほとんど無くなっている。 |
芽生え 千葉市 小倉の森 140417 |
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一斉の芽生え 千葉市 小倉の森 220501 |
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こぼれ話 「太占(ふとまに)」 古代では、政(まつりごと)で物事を決める時に占いは重要な行事(儀式)だった。 古事記神代編のやま場として、天照大神が弟の素盞鳴(すさのお)の乱暴狼藉に怒って天の岩屋に隠れてしまうという事件が起きる。天照大神は太陽神であり、太陽が隠れてしまうことでこの世界は真っ暗になり、様々な禍が起こったとされている。そのような大事件のときに行われる占いが太占である。 古事記では「・・・天の香具山の鹿の骨を抜き取って、同じく天の香具山のハハカの木で占いを・・・」とされている。牡鹿の肩甲骨をウワミズザクラの炭火で焼いて、骨の表面に現れる割れ目の模様によって占うとされるが、儀式の詳細は分からない。骨の割れ目といっても、もちろんそこに文字が表れわけではなく、占い師がその模様をどのように解釈するかが重要になる。つまり占い師は国の意思決定を行う役割を持つ。古事記ではアメノコヤネ命(みこと)とフトダマ命という2神が太占を司っている。 後に中国から亀の甲らを焼いて占う亀卜(きぼく)が伝わる。この亀卜を司ったのが神祇官である卜部(うらべ)氏であり、神祇官は太政官よりも上位の官庁とされた。亀卜が伝わると太占は廃れていく。この時代からすでに日本人は外来のものに弱かったようだ。 占いには人生占いのように将来の吉凶を推測するものや、姓名判断のように、ある事象に潜む吉凶を判断するものなどいろいろあるが、太占は政治の意思決定や五穀豊穣の良し悪しを判断する占いのようだ。 古代においては、宗教と並んで占いが科学だったとも言える。明日の天気を知りたいときに、子供の頃には下駄を蹴上げて裏表で判断した。山にかかる雲の形などから判断する観天望気、さらに近代科学の天気予報とあるが、地球の丸いことを知らない古代人にとってはどれも占いの一つに見えるかもしれない。 |