消毒という名の毒散布
2004年10月29日
10月を過ぎると年末に向けて、植木屋は忙しくなる。
僕の住んでいるマンションも、植栽管理が11月に10日間ほど予定されていて、剪定や草刈りがある。
工事予定表で気になることが一つある。どこでも同じだが、やはり「消毒」をする予定のようだ。
先日、実は僕も仕事で「消毒」をしてきた。
「消毒」と言う言葉はもともとは医療の分野で、病原菌を殺すことを指していたのだと思う。
それがどういう訳か、農林業で害虫や菌類を殺すことにも使われ、同じ薬を使う植木の管理でも使われている。
ご存じの通り、「消毒」で使う農薬は毒薬である。毒をもって毒を征す、と言う深い意味なのか?
今一番、普通に使われている殺虫剤は、有機リン系であり、かの有名なサリンの仲間である。
「毒薬散布」とは言わないが、「消毒」ではなく「薬剤散布」が妥当な言い方だろう。
まあ、もともとの病原菌を殺す薬だって、毒薬と似たようなものなのかもしれない。
殺菌と言う。最近は殺菌が流行っていて、除菌だとか抗菌と言った言葉を付けた製品が売れるらしい。
自分の掌を見て、ここに細菌が何億匹いる、と聞くと殺菌衝動に駆られるのかもしれない。
近頃、子供から大人にも多いアトピーは、清潔好きの結果(体の過敏反応)だと言う説がある。
床に落ちたものを拾い食いしなさい、という大学の先生がいる。
自分の孫に教えているらしい。拾い食いしたって死ぬことは無い。
それより体の免疫反応はたくましくなり、病気にかかりにくくなると言う。
11月のマンションの植栽管理で「消毒」をすることに話を戻す。
これは、同業の立場から言っても、何の意味も無く、かえって益虫まで殺す可能性もあり困りものである。
出入りの植木屋は、管理組合からの作業指示にあるので、何も言わずに従っているのだろう。
しかし、どうせやるなら6月ごろの害虫の多い頃にやって欲しい。
一般的に、散布した殺虫剤の有効期間は、せいぜい1週間から10日程度だと思う。
1度散布したら半年間有効です、なんて農薬があったらそれこそ空恐ろしい。
一方、虫(害虫のみならず益虫含め)が農薬に反応するのは、特定の形態(卵、幼虫、蛹など)の期間である。
普通は、幼虫か成虫に効くようになっていて、卵やサナギの期間は、薬効はあまりない。
だから、対象とする虫の幼虫の期間と、薬の有効期間がオーバーラップするように散布しないと意味がない。
何も考えずに殺虫剤を散布した時に、もっと困るのは、他の虫も殺してしまうことだろう。
例えば、てんとう虫を大量に殺してしまうと、アブラムシが発生しやすくなる。
てんとう虫はアブラムシ(アリマキ)が好物である。
自然の森には、チャドクガもアブラムシも大量発生しない。
自然のバランスの上に様々な生物の発生が成り立っていて、そんな簡単に崩れることは無い。
「消毒」と称して農薬をやたらと撒くことは、身の回りを消毒して無菌状態にすることとよく似ている。
「消毒」するから益虫(抗体)が減り、ますます害虫(病原菌)が増える構図である。
それでは害虫が大量に発生した時にどうすりゃいいんだ、と言うことになる。
ここでは大量にと言うのが重要で、数匹見つけた程度なら放っておいても、植木が枯れ死するなんてことはない。
さらに、大量を発見した時点では手遅れであることが多い。葉への食害は進み、虫も変態しつつある。
薬剤散布は、対象とする害虫を明確にし、薬効のある薬を時期に合わせて、散布する必要がある。
それはそれで、難しい。
チャドクガの卵(上)と若齢幼虫(下) この頃薬剤散布する