地面に寝る
地面の上に寝るのは、自然と一体になれる感じがして気持ちが良い。
太陽の下、芝生の上や、ビニールシートの上で昼寝をするのは格別である。
しかし、山で1晩を明かすとなるときちんとした準備が必要だ。
地球の表面は想像以上に冷たい。
初めて山籠もりした時は、夏、草の上にビニールシートを敷きシェラフに寝た。
寒くはなかった。偶然、草の上だったことと真夏が幸いしたのだろう。
暫くした6月頃、河原でシェラフも無しにテントで寝た。
これは寒かった。一睡もできなかった。
翌日は、まだ帰るつもりはなかったので避難小屋にもぐり込み、汚れた毛布にくるまって寝た。
今は、夏でも銀マット、エアーマット、シェラフは必ず持っていく。
銀マットは熱だけでなく、湿気を絶ってくれるので夜の快適さが格段に違ってくる。
エアーマットは完璧に熱を保護すると同時に、地面の凸凹をなくしてくれる。
夏用シェラフ、シェラフカバー、防寒具は季節と目的地の高度に応じて選ぶ。
いずれにせよ、以上は岩魚のシーズンの話である。
山の中で数日を過ごすときに、気に入ったテントサイトが見つかると正に極楽になる。
お酒と食事は、山を楽しくする十分条件だが、寝床は必要条件だと思う。
あたりが薄暗くなる頃に、まだテントサイトが見つからずにうろうろしているのは、最低の気分だ。
最悪はどこでもビバークする覚悟はあっても、やはり良いところが良い。
まず水があるところ、それも本流でなく枝沢で。
次に水が来ないところ。沢の水面から垂直には2m以上高いと直感的に安心できる。
背面から落石がないところ。できれば渓畔林の中。
下が平らで、適当に石(座れる、重しになるなど)が転がっていること。
などなど。
大雨の中、川の中州に寝ていて流されてしまった事故が玄倉川あった。
とんでもないこととは思うが、戒めにいつも心している。
夜中に、枕元で落石らしき音がしたことがある。瞬間に目が覚め、心臓がドキドキと鳴ったことがある。
幸い、音はそれっきりだったのまた寝てしまった。
一度、店を広げてしまったテントは移動したくないものである。
渓流の横に寝ていると、沢の音がかなりの大きさで、当然だが一晩中鳴っている。
夜、目が覚めたときに、覚める瞬前の静寂から、急にボリュームを最大にした水の音が沸き立つのが分かる。
それを気にし始めたら、今度は眠れなくなった。
変な話だが、今はいつも耳栓を携帯している。
テントを畳んでザックに詰め、帰り支度が完了した後、自分が寝ていたスペースを見やる。
湿った四角いスペースとつぶされた草、周りに生えていた草、腰掛けた石、何となく身近でいとおしく感じる。
1晩、2晩を一緒に過ごしたと言う連帯感か。
ゴミを含め忘れ物が無いことを確認すると、「ありがとう」と頭を下げて帰ってくる。